概要
世界を救うためならば勇者はあらゆる権限を持ち、その権利を行使して他所の家のタンスや宝箱を調べては勝手に持って行ってしまう。少女ラルも、半年かけて造った飛空艇が勇者に「蒐集」と呼ばれる特権により奪われてしまった。
親友のリカに励まされたラルは、ただ大切なものを取り返すべく立ち上がる。
キャッチコピーは「あの風に届くための物語」。RPGでは日常茶飯事のように他所の物を持ち出す行為が世界的に特権という形で公認されているが故に逆らうことができずに困っている人達が主役である。一方で勇者の行為の批判自体が魔王の味方ということではない。権力の集中が危ないという哲学を正義のヒーローの都合のよい特権の問題視で描いた本作は公開から既に5年ほど経つが未だ根強い人気を誇っている。
RPGネタを中心としたギャグ・パロディ要素を全面に押し出した、とうふ氏制作のフリーゲーム「ドリル魔王」とは対照的に、RPGにありがちな一つひとつの細かい要素に関しても生真面目な観点から描かれており、単なる面白さだけで片づけられることなくどこか考えさせられるような部分もある。
ゲームシステムについても非常に丁寧かつ面白い要素が、「調合」である。特定のアイテムを調合することで新たなアイテムや装備などを生み出せる。お店では買えないものは作るしかない。マイスターならではの発想で、強力な装備を生み出すのが攻略ポイント。
レビュー |
ゲームバランス | ★★★★☆ | 総合ランク | A |
操作性 | ★★★★☆ |
ストーリー性 | ★★★★★ |
やりこみ度 | ★★★★★ |
肯定
- いい感じにまとまったストーリー、そしてブレないキャラクター。
しばしば、フリーゲームで厳しめに見られるストーリー性だが、これに不満のある者がいるのだろうか。目的はあくまで「勇者から奪われたものを取り返す」。目的もストーリー性も最後までブレていないため安心して楽しめる。
- 便利だが重要な機能「マーキングペン」。
ゲーム開始時から使えて最後まで重要な機能が、「マーキングペン」である。これは、今いる場所をあらかじめ登録しておいて使うとその場所に飛べるという機能。あらかじめ街に登録しておいて、旅先で体力が少なくなってきたら街に飛んだりするという使い方ができる。
- フリーゲームでは珍しい「はなす」的機能(スキット)。
本作には「スキット」と呼ばれる機能があり、DQで言う「はなす」の機能みたいなものである。が、一言でそう括ってしまうとよろしくないので特筆すべき点がある。スキットにもただ普通に会話があるだけではなく会話の中で新しい調合を思いつくことがあったり、仲間の好感度が上がったりと、忘れがちだが重要な要素も多い。
賛否
- まさか、飛空艇って…
と、某ツンツン頭が主人公のRPGをやった人なら99%の人がピンと来るようなタイトルではあるが、意外な名前がデフォルトネーム。ただ、ストーリー中名前が頻繁に出ることはない。もともとワールドマップの概念を持たない作品なのでどちらかというと某太陽が主人公のRPGと似たような役目かもしれない。
- 個数制限が何となく違和感。
強力な効果を持つものならわかるが、実質的に効果をもたらすアイテムの所持個数に制限があって、どうしても99個を目指したい派の人にとっては気になっちゃうかも。また、個数も道具の種類ごとに異なるためにわかりにくい。余剰に調合してしまうと持ちきれない分が捨てられてしまい勿体ないので気を付けるべし。だが、これもハリのある戦闘バランスに寄与しているとも言える。
否定
- 特にない。
全般的に、非の打ちどころがない。数時間も楽しめるボリュームにキッチリとしたゲームバランス。絶対に出会わないと損するフリーゲームと言っても過言ではない。
まとめ
- 「勇者が常に正しいなんてあり得ない」ということを教訓にRPGをやろう。
正義の味方だから何でも許されてはならない。だからといって悪を擁護するわけでもない。改めて、勇者たる者どういう者であるべきかを考えさせられるいい作品である。
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